大統領候補者登録基準
公職選挙法によれば、大統領候補者になるためには3億円の寄託金を中央選挙管理委員会に納付する必要がある。これは候補者の真剣さと責任感を検証する制度であり、無分別な出馬を防ぐ目的もある。この寄託金は選挙で一定の成果を収めれば一部または全額返還されるが、基本的には現金での納付が原則であるため、実質的には大きな負担となりうる。
寄託金の負担者
公職選挙法第56条に基づき、候補者が登録時に寄託金を納付しなければならない。つまり、政党が代わりに支払うのではなく、『候補者自身の名義』で納付する必要があり、中央選挙管理委員会は候補者が直接納付した事実を確認して初めて登録を承認する。
無所属候補者の負担
無所属候補者は自らの資金で3億円を用意しなければならない。政党の財政支援も受けられないため、資産を売却したり、後援金を集めたり、ローンを組むなど個人の財政負担が非常に大きく、現実的な障壁となることが多い。
寄託金の返還条件
寄託金は選挙後に候補者が得た得票率に応じて返還の可否が決まる。
- 15%以上の得票で全額返還
- 10%以上15%未満で50%返還
- 10%未満では全額没収
どんなに公約が素晴らしく支持層が熱心でも、10%を超えなければ3億円はそのまま損失となる。これは特に新生政党や無所属候補者にとって非常に現実的な圧力となる。
選挙費用の実態
寄託金とは別に、選挙費用はどれだけかかるのであろうか。選挙での有力候補者の場合、400億〜500億円が必要とされ、参加に意義を見出す候補者は100億円未満の費用がかかる。この費用は一個人が負担するには非常に大きな額である。
費用負担の実情
基本的に候補者が先に支出する。すべての候補者は選挙運動期間中に以下の項目について費用を先に支出する。
- 選挙ポスター・公報印刷
- 広報映像やYouTube広告制作
- 遊説車と拡声器、横断幕
- 選挙事務所の運営費、人件費など
この費用は候補者が個人で負担するか、政党・後援会が用意した資金を使用して先に支出する。
政党による支援
政党候補者であれば通常、政党自体の資金、中央党からの補助金、党員の募金、後援金、候補者個人の資産などを総動員して選挙費用を賄う。しかし選挙管理委員会の立場では、候補者名義の支出として処理されなければならず、選挙会計報告書も候補者を中心に作成される。
無所属候補者の試練
無所属の候補者は政党の補助金支援もなく、中央党の財政もない。したがって選挙費用全額を個人の資産、家族の支援、支持者の後援会などで解決しなければならない。現実的には数十億円単位の選挙費用を一人で負担するのは難しいため、多くの無所属候補者は最小限の選挙運動しかできないか、資金不足で途中棄権する場合もある。
選挙後の国家による補償
公職選挙法第122条により、選挙が終わった後、候補者の得票率が一定基準を超えると国家が選挙費用を補償する。
- 得票率15%以上で100%補償(選挙運動関連費用全額+寄託金)
- 得票率10~15%未満で50%補償(選挙費用の半額+寄託金50%)
- 得票率10%未満では補償なし(費用と寄託金はすべて本人負担)
しかしこの『補償』は後で返す概念であり、事前に支援される資金ではない。選挙前には候補者が自費で支出し、選挙後に中央選挙管理委員会に選挙会計報告書と領収書を提出し、検証を経て補償を受けることになる。
2022年大統領選挙の費用
候補者 | 政党 | 選挙費用支出額 | 国家補償額 | 寄託金(3億)返還状況 |
---|---|---|---|---|
尹錫悦 | 国民の力 | 約425億円 | 約414億円 | 全額返還 |
李在明 | 共に民主党 | 約487億円 | 約476億円 | 全額返還 |
沈相奵 | 正義党 | 約63億円 | 約31億円 | 50%返還 |
許京寧 | 国家革命党 | 約42億円 | 約0円 | 未返還 (10%未満) |
このデータからわかるように、実際の大統領選では数百億円規模の費用がかかり、補償の有無はあくまで得票率によって決まる。
尹錫悦候補と李在明候補はそれぞれ48%と47%程度の得票率を得て選挙費用全額を補償された。
沈相奵候補(6.4%)は15%に満たなかったため、50%のみ補償された。
許京寧候補は得票率が1%にも満たなかったため、選挙費用はもちろん寄託金3億円も没収された。
この事例からわかるのは、大統領選に出馬すること自体が非常に大きな財政的リスクを伴うという点である。得票率1~2%の差で数十億円が補償されるか、全く受けられないかが決まる構造であるためだ。
このような選挙費用の構造は特に新生政党所属の候補者にとって大きな負担となりうる。寄託金と補償を受けるためには少なくとも10~15%の全国単位得票率を達成しなければならないため、現実的に政党の組織力、メディア露出、財政力などがすべて要求される。
イ・ジュンソク候補の完走可能性
次に、多くの人々が注目しているイ・ジュンソク候補の完走可能性について触れてみよう。
イ・ジュンソク候補は改革新党を創党し、新鮮な政治メッセージと若年層中心の支持を受けて出馬を宣言した。特に1985年3月生まれで、満40歳出馬条件をちょうど満たした象徴的な出馬者として評価されている。
しかし改革新党は国会議席が5席未満の新生政党で、選挙補助金も非常に少ない。現在までに確保した国庫補助金は15億円程度とされている。ここに得票率が10%未満である場合、寄託金3億円はもちろん全ての選挙費用が自費に転換される状況に置かれる。
つまり、イ・ジュンソク候補が完走するには現実的に次の二つの条件のいずれかを満たす必要がある。
- 支持率10%以上を確保して寄託金と選挙費用を一部補償される
- または党内外から十分な財政的支援が裏付けられる
現時点での世論調査ではイ・ジュンソク候補は一部地域と年齢層で注目を集めているが、全国単位で15%以上の得票率を確保できるかは未知数である。しかし完走自体を放棄する場合、これまでかかった費用はそのまま損失として残るため、むしろ最後まで完走する可能性が高いという分析も存在する。